イタリア語

アモーレ、テゾーロ、親しい人の呼び方 − 接尾辞suffissiでも作れます

 

日本人の女友だちがヴェネツィアに遊びに来たとき、わたしの夫から「チャオ、ベッラ!」とあいさつされ、「ベッラ(美人さん)なんて呼んでもらえて、イタリア語っていいよねえ〜」と、目をハートにしていた。が、夫は別に、彼女が美人だからベッラと言ったのではない。ベッラ(bellaべっぴんさん)やベッロ(bello男前)というのは、親しい人に呼びかけるときの決まり文句なのだ。

英語でも親しい人を呼ぶとき、sweetheart、 honey、 loveといった言葉を使うが、イタリア語も同じで、親しい人を呼ぶ呼び方がいくつもある。

前述のベッロ belloのほか、その最大級であるベリッシモ bellissimo、日本でもすっかりおなじみのアモーレ amore(愛)、テゾーロ tesoro(宝)、 ベッレッツァ bellezza(美)、 ジョイア gioia(喜び)、ステッラ stella (星)、ペルラ perla(真珠)などがよく使われる。

イタリアに行ってまもないころは、夫や夫の家族にこういう言葉で呼びかけられると、自分が大事にされているようでうれしかった。甘い言葉、うつくしい言葉を惜しみなく使って親愛の情を表現しようとする、愛情深い人たちなんだと思った。が、暮らしていくうち、これらの言葉は、特に親しくなくても使われることを知った。

行きつけの魚屋さんや八百屋さんで、「アモーレ、今日はイキのいい黒鯛があるよ」とか、「テゾーロ、ラディッキオが特売だよ」と呼びかけられる。この場合のアモーレやテゾーロは、日本でいえば「オネーサン」とか、男なら「オニーサン」とか「シャチョー」ぐらいのニュアンス。使われる場所や関係性によって意味が変わるのは、日本語と同じだ。

 

イタリアの呼びかけの言葉は、しかし、ヴァラエティー豊かだ。特に小さい子に向けられるものには愛らしいものがたくさんある。passerotto(スズメちゃん)、 cucciolo(子犬ちゃん)、 ciliegina(さくらんぼちゃん)、bambolotto(お人形ちゃん)、orsachiotto(ぬいぐるみちゃん)などなど。なかには、ciccia(おでぶちゃん)、puzzone(臭い子ちゃん)、microbino(微生物ちゃん)といったユニークなものも。

また、ヴェネツィアでは、ヴェッチョvecio(おっさん)、ヴェッチャvecia(おばはん)をよく使う。ディープな方言なので、これで呼び合うと親密感が倍増する。ヴェネツィアでヴェッチョ・ヴェッチャと呼ばれるようになったら、ヴェネツィア人の仲間入りだ。

 

さらに、イタリア語には、これら定番の呼び方のほか、個人の名前に接尾辞(suffissi)を加えて格変化させ、愛称を作るやり方もある。

たとえば、わたしの名前は「きよこ」だが、夫はよく、キヨキーナ、キヨケットと呼んでいた。接尾辞の「-ino,-etto」は、diminutivoと呼ばれる、縮小をあらわす接尾辞で、「小さな」の意味を与える。「小さきもの、いと愛らし」で、縮小接尾辞は「愛らしい」という意味も表わすので、キヨキーナ、キヨケットは、「かわいいきよこ」という意味になる(笑)。日本語にしたら、きよきよ、きーちゃん、きー坊、きよぴー、といったところか。

また、アニメ「うる星やつら」のイタリア語版吹き替えでは、ラムちゃんはダーリンのことをテゾルッチョ(tesoruccio)と呼ぶが、これはtesoro(宝)に、愛情をあらわす接尾辞「-uccio」を加えたもの。テゾーロだけでもダーリン、いとしい人という意味だが、それだけでは物足りないようで、さらに愛称接尾辞をつけて最大級にしている。

日本語でもニックネームを作るとき、名前が「みほ」なら、「-りん」「-たん」をつけて、「みほりん」、「みほたん」にしたり、新垣結衣の「あらがき」がガッキーになったりするが、そんな感じかな。

ちがうのは、接尾辞を使ってニックネームひとつ作るにしても、自然発生的ではなく、文法がしっかり存在しているということ。イタリア語では名詞に男女の区別があるから、同じダーリンでも、男ならテゾルッチョtesoruccio、女なら語尾がaになり、テゾルッチャtesorucciaになる。

 

さて、こんなことを書きながら、自分自身はアモーレやテゾーロといった言葉は使えない。イタリア人じゃないし、そういう遺伝子がないからだと思うが、一度も口から出てきたことがない。唯一の例外が、猫。

うちに猫がやってきてからは、アモーレとテゾーロを連発している。ほかにも、ベリッシマちゃん、テゾルッチャ、superかわいこちゃん、きれいな緑のお目々ちゃんと、歯の浮くような愛称で呼びまくっている。

これはどういう心理なんでしょう?

 

Suffissi 接尾辞

Diminutivi 縮小接尾辞(「小さな」の意味を加える。*かわいいという意味、愛称と同じニュアンスを持つことも多い)
-ino, -ello, -etto, -icino, -icello e -icciolo
例 libro本 → libretto小冊子、 tavoloテーブル → tavolino小卓
mano手 → manina小さな愛らしい手

Accrescitivi 増大接尾辞 (「大きな」という意味を表わす)
–one, -otto, -ozzo, -accione o -acchione
例  regalo贈り物 → regalone大きな贈り物、 ragazza 女の子→ ragazzona 大柄な娘

Vezzeggiativi 愛称接尾辞(愛情を表わし、「かわいい」「いとおしい」という意味を加える) -etto, -uccio, -uzzo, -ino, -acchiotto
例 casa 家 → casetta 愛らしい家、 bocca 口→ boccuccia 愛らしい口

Dispregiativi 軽蔑接尾辞 (蔑みや、小さくて粗末といった意を表わす)
-accio, -astro, -onzolo, -ucolo, -iciattolo
例  poeta 詩人→ poetastro へっぽこ詩人、 giovane 若者→ giovinastro 不良、チンピラ

参照: 現代イタリア文法 坂本鉄男著

 

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*Image photo from Upsplash.  Thank you!

ABOUT ME
湊夏子
長いイタリア暮らしを経て、帰国。日英伊の3か国語でメシの種を稼ぎ、子どもを育てているシングルマム。
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