イタリア語

カロンテ 地獄の熱波

 

イタリアは先週、記録的な熱波に襲われた。熱波には名前がついていて、その名も「カロンテ(Caronte) 地獄の渡し守」。地獄のように暑い(caldo infernale)ことからの連想で、ダンテの「神曲 地獄篇」から命名されたそうだ。

特にイタリア南部は記録破りの暑さで、シチリア、プーリア、サルデーニャでは45-48度に達し、山火事も起きた。まさに煉獄に焼かれる暑さだ。中央イタリアの首都、ローマでも43度に達し、義理の姉が「まるでオーブンの中」と悲鳴を上げていた。

一方、北イタリアでは、暑さがおさまったと思いきや、ところどころで集中豪雨、大粒の雹が降った。ミラノ、ヴェローナなどでは大災害になった。

イタリアは日本と違い、エアコンがあまり普及していない。暑いといっても、からっとしていて、日本のような耐え難い蒸し暑さではなかったからだ。特にイタリア北部のヴェネツィアでは、暑くて寝られないということはめったになかった。

ヴェネツィアでは、暑さ対策として、窓の外のscuroと呼ばれる板戸を昼間も閉めていた。最初、夫の実家で昼間、室内が真っ暗なのを見たときはびっくりしたが、なるほど、太陽の光が入らなければ、室内の温度も上がらない。板戸を閉め、内側のガラス戸だけ開けていれば、風も入り、涼しいのである。

こんなふうにしてれば、扇風機だけで十分にしのげた。それでも暑さに弱い人は、ペングイーノ(penguino)を使っていた。これはデロンギのポータブルエアコンで、取り付け工事をしなくても使える。イタリアは歴史的保存地区、古い建築物が多いから、エアコンの取り付けも容易ではない。

しかし、上述の暑さ対策は、あくまで、従来通りの夏の暑さの場合だ。今夏のような、地獄級の熱波が来たら、さすがにエアコンがないとつらいだろう。お年寄り、からだの弱い人には命取りになりかねない。

この異常気象、環境破壊を、どのように食い止めればよいのか。

自宅の電気やガスを再生エネルギーのものに変える。車を水素や電気自動車に変える。個人レベルでできることをやっている人も多いだろう。スウェーデンの環境活動家、グレタさんのように、温室効果ガスを大量に排出するから、飛行機には乗らない、という人もいる。

そんな個人個人のつましい努力の一方で、ロシアとウクライナの戦争では莫大な資源が、破壊のために使われている。有害物質が多量に放出され、農地を、湖を汚染している。

二、三年前に話題になった「人新世の資本論」という本で、著者の斎藤幸平は、人類がこのまま経済活動を続けると、地球を破壊し、奪い合いの殺戮の世になると警鐘を鳴らしている。


人新世の「資本論」 (集英社新書)

それを具現化したような秀逸なドラマがあった。「スノーピアサー」。現在はネットフリックスで見られるようだ。

温暖化が進んだ地球を救うため、科学者が地球を冷やす装置を使ったら、地球が凍ってしまい、住めなくなった。ノアの箱船を彷彿とさせる、地球を周回する列車に乗り込めた人たちだけが生き残ったが、そこは厳格な階級社会。存亡をかけ、富裕層と奴隷層の熾烈な生存競争が繰り広げられる…。このドラマ、もはやフィクションと思えない。

第二次世界大戦後、先進国など、限られた国や地域だけではあるが、多少は民主的で自由な社会が育まれた。なのに、もう、戦火の世界に戻ろうとしている。日本では幸い、まだ平和を謳歌できているが、それでもなかなか明るい気持ちになれないのは、この、世の中が危ない方向に進んでいるという予感が、通奏低音のようにあるからだろう。

先週、イタリアを襲った熱波が「地獄の渡し守」と名付けられたのが、偶然とは思えない。われわれはまさに地獄への道を突っ走っている。止めたいのに止められず、途方に暮れている。

 

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UnsplashMatt Palmerが撮影した写真 Thank you!  (*これはイメージ写真です)

ABOUT ME
湊夏子
長いイタリア暮らしを経て、帰国。日英伊の3か国語でメシの種を稼ぎ、子どもを育てているシングルマム。
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