イタリア人のことわざを紹介するシリーズの、今日はその8です。
イタリア的なるものを理解するのに大変役立つことわざ。これらのことわざが実際どのような場面で、どのように使われているのか、紹介しています。
Uomo avvisato mezzo salvato.
Chi viene avvisato di un pericolo può salvarsi.
「知るは身を助く」と訳してみました。
身に危険が迫っていることを知らされれば、助かるために行動できる。半分助かったようなものだ、という意味。
出典 https://www.frasimania.it/proverbi-italiani/
以下のエピソードは17年ほど前、まだスマホがなかった頃の、イタリアでの通勤電車でのお話です。その頃のイタリアの電車、特に通勤によく使われるローカル線の普通・準急電車は、遅延、欠便が日常茶飯事(おそらく今も?)。車内アナウンスもなかったり、あってもアバウトだったりで、乗客は何が起こっているのかよくわからないまま、ひたすら忍耐を強いられたものでした…
某月某日。雪は降り続いていた。ボローニャからヴェネツィアへ向う電車の窓から見えるのは、一面の雪景色だ。電車はもう1時間以上、止まっている。今、どこなんだろう?アバノのあたりか?ふつうなら2時間で着くところ、のろのろ運転と停車ですでに5時間以上経過している。
ボローニャには週に1度、仕事で通っている。この日は仕事を終えて飲まず食わずで飛び乗ったため、喉がからからだ。しかもこんなときに限って車内販売が通らない。ミネラルウォーターを買っておかなかったことを激しく悔いた。
時折流れる車内アナウンスは、雪のため遅れていると繰り返す。しかし、詳しい状況説明はない。ほかの乗客もみな、疲れた顔をしている。
しばらくして、何人かの人が通路を前方車両へと向かうのに気づいた。トイレかな?最初はそう思って気に留めていなかった。それがだんだん、前に行く人の数が増えてきた。人がどんどん前の車両へと向かっていく。
なんだろう?これは何を意味しているのか?しばらくは自分の席で様子をうかがっていたのだが、何かあるのかもしれない、と、立ち上がった。そして、通り過ぎていった男性の後を追って問いかけた。
「すみません。あの~、なぜみんな前のほうに向かっているのですか?」
「は?ああ。運転手に今どうなっているか、聞きにいくんですよ」
「? 運転手?」
「そう、こういう時は最新情報を持っている人に直接聞かなきゃ」
そうなんだ。車内アナウンスを鵜呑みにしてちゃダメなんだ。イタリアでは情報源までたどり着かなきゃいけないのか……。
男性はニコッと笑って、
「Uomo avvisato mezzo salvato。知るは身を助く。状況を知らされれば人は助かったも同然って意味ですよ。さあ、行きましょう」
男性はまた前に歩き始める。その後をわたしも追った。
通路は同じことを目指す人たちで混んでいた。運転手さんのところまではたどり着けなかったが、最前線からの情報が耳電話のように伝わってきた。ヴェネツィア駅に入る直前の線路が一本しかないため、電車たちが順番を待っているという。何時間も待たされた挙句、拍子抜けするような答えだ。
「事故や故障が発生しているわけではないようですね。それがわかっただけでも、まあ、よかった。余計な心配をしなくすみますからね」
先ほどの男性はまたニコッと笑って、わたしに言った。
「ね?Uomo avvisato mezzo salvato、でしょ?」
それからまた小一時間ほど待たされ、電車はようやくヴェネツィア・メストレ駅についた。
メストレは本土側にあるヴェネツィアのベッドタウンで、人口も多い。一方、いわゆるヴェネツィア、歴史的保存地区である潟のなかの島々に住んでいる人は少ない。このような通勤電車では、終点のヴェネツィア・サンタルチア駅まで乗る人は数えるほどだ。
大半の乗客がメストレで電車を降りた。先ほどの男性もまたニコッと笑って電車を降りていった。車両にはもう、わたししかいない。車内アナウンスは、この電車はここで終わり、ヴェネツィア本島まで行く人は電車を乗り換えろと言っている。さて、この情報は正しいのか?
急にがらがらになった車内。通路をまっすぐ、最前車両まで走った。車掌らしき人がいる。わたしを見ると、
「降りてください。この電車はここで終わりですよ」
「! ヴェネツィア・サンタルチア駅に行くには?」
「降りて、乗り換えてください」
今回の車内アナウンスは合っていたようだ。
わたしは電車から降りると、プラットフォームの発車標を見た。なんと、1番線も、2番線も、3番線も4番線も、すべて同じヴェネツィア・サンタルチア行きで、発車時刻も同じ。この発車標、イカれてしまってる!鉄道員らしき人を探したが、プラットフォームには誰もいない。
どっと疲れが押し寄せてきた。寒いし、空腹だし、もう動けない。しかし、 とにかく情報を得なければ。
わたしは最後の力を振り絞り、重い荷物を引きずって階段を降りた。コンコースで鉄道員をつかまえ、
「すみません!ヴェネツィア・サンタルチア駅まで行くには何番の電車に乗ればいいんですか?発車標は狂っちゃってるようなんですけど」
「ああ、2番のがあと1分で出ますよ。それに乗ってください。急いで」
またもや重い荷物を抱え、今度は階段を駆け上がる。発車しかけている電車に、なんとかギリギリ飛び乗った。あー、しんど。この国で確かな情報を得るには、汗かいて、走って、からだを張らなきゃならないのだ。
電車が海の上を走っている。もう深夜。車窓の外は真っ暗だ。暗い海の向こうに、ようやくヴェネツィア・サンタルチア駅が見えてきた。なんとか家に帰れそう。
ヴェネツィアに着いたら雪はやんでいた。いつもなら水上バスに乗って帰るのだが、どうしよう。雪で水上バスだって遅れているかもしれない。それに、また運転手のところまで聞きに行くのはもうゴメンだ。
結局、わたしは歩いて帰った。雪が積もっていたので足元が悪く、大変だった。普段の倍、1時間以上かかった。でも、少なくとも自分の足はわたしの思う通りに動いてくれる。右往左往させられないで済む……。自分の足に心から感謝の夜であった。
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タイトル写真はUnsplashのAmmar ElAmirが撮影した写真 Thank you!