イタリアのことわざを紹介するシリーズの、今日はその6です。
Moglie e buoi dei paesi tuoi.
嫁と牛はおらが村
結婚相手は同郷から選びなさい、の意。
「嫁」と「牛」が同格にあつかわれる由来は、昔のイタリアの農村文化にさかのぼる。当時、農民にとって「牛」は労働に欠かせず、生計を立てるための手段だった。「嫁」は家事や育児はもちろん、愛情を満たしてくれる存在だ。「嫁」も「牛」も大事な存在だから、よそから選んで、慣習や価値観がちがってうまく行かないと困る。それで「結婚相手は同郷者から選ぶのがよい」となったようだ。
とはいえ今や世界はグローバル化して、夫や妻は「おらが村」どころか、地球の裏側から見つけてくる人もたくさんいる。このことわざももう死語になったかと思いきや……なっていない。いくら国際結婚が増えても、破綻するケースもまた多いので、そんなとき「やっぱり『嫁と牛はおらが村』だ」というふうに使われたりしている。
もう20年近くも前の話だ。イタリアに住んでいたころ、キューバの女性と知りあった。彼女はバカンスでキューバを訪れていたイタリア人男性と知りあい、結婚してイタリアに移住した。最初はよかったが、だんだん、北イタリアのどんよりとした冬が耐えられなくなってきたという。
「ここには青い海がない」
彼女はさびしそうにつぶやいた。
また、バカンス中は羽振りよくふるまい、楽しく過ごせる相手に思えていた夫が、イタリアではただ黙々と働く地味な職人の顔しか見せなくなった。
「夫は毎日、家と職場を往復するだけ。歌も、踊りもない。イタリア人は人生を楽しむことを知らない」
海の色のちがい、暮らし方のちがい、価値観のちがい……最初は乗りこえられると信じていたちがいの数々が、とても乗りこえられない大きな壁となって彼女を苦しめた。
結局、二人は離婚した。彼女はしばらくして別の街に移ったと聞いたが、まだイタリアにいるのだろうか。それとも、青い海と踊りと音楽を求めて、キューバに帰ったのだろうか。
「Moglie e buoi dei paesi tuoi. (嫁と牛はおらが村)」
今の時代、時代錯誤にも聞こえるこのことわざだが、実はそうでもない。異なる国、異なる文化を持つカップルがおたがいのちがいを乗りこえていくのがいかにむずかしいか、逆説的に言い当てている。
イタリア語ひとことメモ
「Moglie e buoi dei paesi tuoi」の「buoi」は「bue(牛)の複数形」です。小学館伊和辞典によると、bue、manzoは主として食肉用の「去勢した牛、牛肉」を意味します。魚をよく食べる日本で魚に関する語彙が多いのと同様、イタリアでは牛も種類により、次のように言いわけられています。
Toro:去勢しない雄牛。闘牛用としても飼育される
Vacca: 雌牛、雌牛肉
Vacca da latte , mucca:乳牛
Vitello:仔牛、仔牛肉
Buffalo:水牛
Bisonte::野牛
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