イタリア人的考え方

できない言い訳・第二弾「人間だもの」

 

宿題ができない。残業したくない。仕事でミスをしてしまう…。大丈夫、ご安心を。イタリア語にはこんなときに使える、便利な言い訳のことばがいくつかあります。前回は、「それは自分より強い E’ piu’ forte di me」というフレーズをご紹介しました。引き続き、使える表現を紹介します。

〜〜〜

「Umanamente impossibile.  無理。人間だもの」

「umano」ということばは「人間」という意味の名詞で、「人間らしい」、「人間として当然の」、「温かみのある」といった意味の形容詞にもなります。ここでは「人間」ということばが、「神」と対比して使われているのがポイントです。全知全能で完璧な神と比べ、人間は不完全な生き物だ、というニュアンスがあるのです。

(例) Sbagliare è umano. まちがいをするのは人のさが。人間はまちがう生き物だ、という意味。

「umanamente」はその副詞です。で、「Umanamente impossibile」というと、「人間には無理」という意味なのですが、そこには「自分は神でもなんでもない、弱き小さき人間にすぎないのだから、わたしにそんなこと求めても無理」といったニュアンスが出ます。

(例1)

上司:「ずいぶん入力ミスがありますね」

部下:「わたしひとりで2000件もやらされたんですよ。全部完璧にやるなんて、umanamente impossibile(神様じゃあるまいし、人間にまちがいはつきものです)」

(例2)

先生:「教科書の巻末に載っている漢字100語を次の授業までにおぼえてきてください」

生徒:「ええ〜!そんなこと、umanamente impossibile(神でもなんでもない、ふつうの人間にはできませんよ)」

 

上記のような感じで使われます。で、これが意外に通るんです!日本だったら、そんなこと言ったら、「根性が足りない」とか、「死ぬ気でやればなんでもできる」などと返されそうですが、イタリアではこの「人間だもの、神さまじゃないもの」のニュアンスが出てくると、なんとなく、しかたないね〜という受容の雰囲気になってくるのです。

 

もうひとつ、おもしろいと思った言い訳表現があります。

「Noi mortali non possiamo fare una cosa di genere.  (神と違って不滅ではない)われわれふつうの人間には、そんなことは不可能だ。」

 

このフレーズを聞いたのは、イタリア人と日本人が混ざって働いていた職場でした。定時になったらさっさと帰ってしまうイタリア人職員のなかで、ひとりの日本人がハードに働いていました。仕事をふられても嫌な顔をせず引き受けるので、彼に仕事が集中してしまっています。

この日本人職員と同じ部にいるイタリア人職員Aに、〇〇さん、残業がすごいんだってね、と、なにげなくつぶやいたところ、Aが先ほどのフレーズを口にしたのです。

「Noi mortali non possiamo fare una cosa di genere. われわれふつうの人間には、あんな真似はできないよ」

単に、自分はそんなに働けない、と言い訳しているだけなのですが、それを言うのに、「人間は不滅の神さまとちがって、はかない定めの生き物だから」と、大上段な表現を使うのがおかしい。

 

上述のふたつの表現は、どちらも、できないのは自分のせいじゃない、そもそも人間には無理なことなんだ、と自己正当化しています。都合のいい責任転嫁、と言えなくもありません。が、先ほども述べましたが、おもしろいことに、これらの表現、わりとすんなり受け入れられるんですよね。そうよね、しかたないよね、だってわたしたち、不滅の神とか精霊、超人じゃないもんね、という感じで…。

 

「まちがえちゃった」

「è umano. しかたないよね、人間だもの」

 

「ここに出てくる漢字、来週までに全部覚えろって?」

「umanamente impossibile. 無理。人間の力を超えてる」

 

「入力ミスを減らせって?」

「umanamente impossibile. 無理。ロボットじゃないんだから」

 

こんな感じで使われ、しかたないよね〜、となる。

そのへん、イタリア人はわりと現実的な人たち、健全な常識がある人たちなんだなと思います。死んでもがんばれとは言わない。やれる範囲でやって、ダメならしかたないという感じ。

 

それを見ていて、自分の来し方を思い出し、なんとなく悲しくなりました。中学受験のときなんて、塾で「必勝」なんて書いたハチマキを巻かされて、夜遅くまで勉強したっけ。

あれが悪いとは思いません。人間、がんばるときにはがんばらなきゃ、欲しいものは手に入らないですしね。でも、同時に、力を抜くことも大事だって、頭に刻んでおきたいものです。どうでもいいこと、自分ひとりの力でどうにもならないことにまで全力で取り組んでいたら、エネルギーが枯渇して、ここぞといったときに使えません。年をとって体力も集中力も欠けてきた今日このごろ、さらに強くそう感じます。

 

というわけで、イタリア語の言い訳表現、使ってみてはどうでしょう?

「無理だよ、人間だもの」

「しかたないよね、人間だもの」

「わたしは神さまじゃない」

受け入れられるかどうかはわかりませんが、心は多少、軽くなるかもしれません。

 

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UnsplashMartin Wyallが撮影した写真, Thank you!

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トリリンガル・マム
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