イタリア全土に現在敷かれている外出制限、もしコロナ感染拡大が順調におさまっていくようであれば5月3日には終わる予定だ。 (注:延長も大いにあり得る)。
イタリア高等衛生研究所によると、イタリアのコロナウィルス感染者数は3月31日の時点でピークに達したとのこと。4月21日のレプッブリカ紙はCOVID-19で最も打撃を受けたロンバルディア州、ミラノ近郊のベルガモで、救急病院に1ヶ月半ぶりにようやく空きが出たことを報じている。
政府はウィルスと共存しながら対策を打ち出す「第2段階」に向けて復興への準備を進めており、段階的に経済活動の規制解除を始めた。これまで食料品など生活必需品の生産と販売しか認められなかったのが、4月14日からは書店やベビー用品店などが営業を開始している。
この外出制限、3月10日から始まっており、もう6週間以上が過ぎた。生活必需品の購入や通院といった正当な理由なしには自宅から出られない。それも自宅から200メートルに限られ、外出には「理由証明書」の持参が必要だ。
日本の外出自粛に比べ大変厳しい措置だが、大半の市民には必要なことと受け止められているようだ。筆者の友人知人も、うんざりしながらもそれなりに工夫を凝らし、日々を過ごしている。
コロナが社会にもたらした変化のなかでも最も大きいのが、人と人との接し方だろう。
自宅から出ない。外ではマスクを付けて、人と人との間に2メートルの「社会的距離」を置く。握手、ハグ、キスといった肉体的接触が日常的だったイタリア人にとって、これは大きな変化だ。感染のピークが過ぎ、少しずつ日常生活が戻ってきても、ワクチンができ、この病気が完全に制圧されるまでは、握手、ハグ、キスは当分できないだろう。そのことがイタリア人の習慣やメンタリティーに及ぼす影響は大きいと思う。
イタリアでは家族、恋人、友人はもちろん、親しい同僚にもキスとハグは欠かせない。夏休みなど長い休暇から職場に戻り、再会したときなどに「チャオ」だけで済まそうものなら、向こうから「Dammi un baccetto(キスしてよ)」と催促される。彼らの親愛の確認には肉体的接触は必須。言葉だけでは足りないのだ。
「イタリア人は好きな人や親しい人には触らずにはいられないの。強く抱きしめて、キスして、その人を感じたいの。そうしないではいられないの」
昔、そうわたしに説明してくれたイタリア人の女友達。彼女は現在、高齢のおかあさんの面倒を見ているが、今回のコロナ禍で接触に注意しなければならなくなり、今までのようにおかあさんを抱きしめたり、キスできなくなったことを嘆き、悲しんでいた。
また、遠距離恋愛している知人は、「恋人に会えないのがつらい。移動禁止令が終わったら会えるんだろうけど、もしかして無症状感染してたらと思うと、どうしていいかわからない。すぐに抱きしめたいのに・・・」
親しい人たちと以前のように触れあうことができないつらさを嘆く声は多い。
それでも無事でいれば、あるいは感染しても回復すれば、またいつか抱擁をかわせる日も来るだろう。しかしコロナ感染で入院し、不幸にも亡くなった場合、入院中だけでなく、亡くなった後もお顔も見られないまま埋葬という場合が多い。家族の悲しみは想像するに余りある。
わたしも最初は慣れなかったが、イタリア式の“肉体派”愛情表現は、慣れるとなかなかいいものだ。その人のからだのボリューム、温かさ、肌の感じなどを通して、言葉だけでは伝わらないその人が伝わってくる。最初はちょっと無理して儀礼上のハグをしていても、回を重ねるうちにだんだんその人のことがわかってきたり、本当に親しくなっていくことがある。肉体的接触というのはまちがいなく人と人との距離を縮める。
専門家の予測によると、コロナ禍がある程度落ち着くまで、まだ一年はかかるだろうということだ。長い長い期間、人との間に距離を置く状況が続く。このような非常事態、悲劇を経験した後で、イタリア人にキスとハグは戻るのか。
イタリアの心理学者フランコ・スピノガッティ氏は、コロナ危機の後の愛情表現について、コリエーレ紙で次のように述べている。
「コロナ危機の後、愛情表現の仕方が変わるでしょう。キスしたり抱擁したりできないことを経験したことで、再びそれが可能になったとき、これら何気なくしていた行動を意識し、価値を見出すことになると思います。言葉や眼差し、遠くからのジェスチャーなどにより感情が敏感になるのでは」
イタリアでも日本風の、「目は口ほどにものを言う」的な愛情表現が増えるということか。それはさびしい・・・。
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