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Netflix 「The Crown」-フィリップ殿下の隣の芝生-

 

Netflixで配信されている「The Crown」という、エリザベス女王が主人公のドラマがおもしろい。王室の暮らしが垣間見られるのが楽しいし、女王の人生を通して英国の戦後の歩みを知ることができる趣向もいい。なにより王室の人たちの人間としての葛藤や苦悩がよく描かれている。

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夫君のフィリップ殿下がなかなか魅力的だ。知らなかったが、フィリップ殿下はギリシャに王子として生まれたそうだ。生後まもなくクーデターで亡命を余儀なくされ、一家はその後ばらばらに。フィリップはイギリスの厳しい寄宿学校で孤独な少年時代を送った。成長してからはイギリス海軍に在籍し、軍歴を重ね将来を嘱望されたが、エリザベス女王との結婚により海軍でのキャリアの道は断たれてしまった。ドラマではやんちゃで革新的なところのある人物として描かれており、女王を支える影の存在であることに反発し、いろいろ反抗を試みる。

おもしろかったのは、中年になったフィリップがテレビでアポロの宇宙飛行士たちの月面着陸を見るエピソードだ。宇宙飛行士たちの偉業にいたく感動する一方、自分は人生でなにもなし得ていないと悩む。もともと海軍のパイロットで、男のロマンのようなものを大事にしている人だったから、宇宙飛行士たちの偉業におおいに触発される。それでいてもたってもいられなくなったのか、急にからだを鍛え始めたり(そういうところが少年のようでかわいい)。地球に帰還した宇宙飛行士たちがロンドンを訪れると、その偉大さの秘密を知りたいと、周到に質問票まで準備してうやうやしく会見に臨む……。

特権階級の頂上に立つような人でさえ、自分は人生でなにもなし得ていないなんて悩むんだなあ。アポロの宇宙飛行士たちと自分を比べ、自分の仕事の意義を問わずにはいられないフィリップ殿下の人間味あふれる姿に好感をおぼえた。

と同時に、人間はつくづく欲深だなあとも思った。私もそうだが、なぜ自分の仕事に満足するのはこんなにもむずかしいのか。思うに、自分の仕事は毎日やっているから、いいことばかりじゃないことを知っている。苦労や面倒、理不尽を経験しているから現実が見えている。一方、他人の仕事はいいところしか見えない。フィリップ殿下のような、だれもがうらやむような地位・職位にあっても隣の芝生は青いのだから感慨深い。

王室に生まれようが、庶民に生まれようが、人というのは意義ある仕事がしたいと思う生き物のようだ。意義の追求は人を悩ませたり、苦しませたりして厄介だ。しかし同時に、人を人たらしめ、成長、進歩させるすばらしいギフトでもある。

フィリップ殿下の胸のうちなどわかるよしもないが、その後もずっと公私にわたって女王を支えていらっしゃったのを見ると、次第に王配(女王の夫)という役割にご自分の仕事の意義を見出されていったのかもしれない。

トップの画像:WikiImagesによるPixabayから。Thank you!

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湊夏子
湊夏子
長いイタリア暮らしを経て、帰国。日英伊の3か国語でメシの種を稼ぎ、子どもを育てているシングルマム
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