イタリア食べ物

パネットーネと鏡餅

 

イタリアでクリスマスに欠かせないお菓子といえばパネットーネ。12月に入り街がイルミネーションで煌めき始めると、パン屋やケーキ屋さんにパネットーネが並ぶようになる。

パネットーネとはイタリア語で大きなパンを意味する(「パン=pane」+「拡大辞 -one」=「panettone」)。直径・高さとも30センチほどもあるドーム型をしていて、レーズンやドライフルーツ、オレンジピールなどが入ったふわふわした甘いパンだ。

パネットーネは日本のクリスマスケーキと違ってクリスマスシーズンの間いつでも食べる。おやつタイムや食後のデザート、また朝食のパン代わりにも。職場などで同僚たちと手軽にクリスマスを祝う時などは、スパークリングワインで乾杯して食べたりもする。大きなのを切り分けてみんなで分け合って食べる。

イタリアに住んでいた時はもらったり買ったり、たくさんのパネットーネを食べた。が、思い返してみるとパネットーネを手作りしたという話を聞いたことがない。今さらだけど、なぜだろう。イタリア人はピザを家庭で作る人も結構いるから、見た目も味も素朴なパネットーネぐらい作れそうなものなのに。

ふしぎに思ってイタリア人の友だちに訊いてみると、

「いや、家庭では無理。パネットーネはああ見えて実は長い時間をかけた発酵と熟成の複雑な過程を経てるのよ。しかも家庭用オーブンでは高さが足りない。家庭で作るのはむずかしいね」

なるほど……。彼女はさらに、

「パネットーネは特別な天然酵母を使ってるんだよね。それが微生物の発生を抑えるから日持ちがするの」

そうなんだ。シンプルに見えるけど実は貴重な材料を使った、手のかかったお菓子なんだ。考えてみれば昔は冷蔵庫も保存料もなかった。そんな時代に長く保存できるようにと考案され、今に至っているんだなあ。

イタリアに住んでいたころ、パネットーネは実はそんなに好きではなかった。地味すぎてつまらなくて、日本のイチゴと生クリームのケーキを夢見てた。でも日本に戻り、洗練を極めた新種のケーキがあれでもかこれでもかと並べられているのを目にするうち、パネットーネがなつかしくなった。

なんてことない甘いパンだけど、大きいのを切り分けて家族や友人などと食べる。毎年お馴染みの変わらぬ味に、ホリデーシーズンの到来の喜び、今年もいっしょに無事にクリスマスを迎えられたという安堵と感謝の気持ちを分かち合っていたように思う。

ちょっとちがうけど、子どものころ食べた鏡餅を思い出した。鏡開きの日が来て固くなっている大きなお餅を祖父や父が苦労して切り、焼いて砂糖醤油につけたり、きな粉餅にしたりして家族みんなで食べた。

大きくなって都会であわただしい生活を送るようになってからは、恥ずかしながら自分で鏡餅を用意したことはない。お餅は買っても個別包装だ。そういえばパネットーネも今ではひとり分の小さな個別包装のものがある。ライフスタイルが多様になったってことか。

さて、とりわけ好きというわけでもないパネットーネ、今年はどうしようかなと思ったが、イタリアの血を引く娘のため、やっぱり大きなやつを購入した。このサイズだとべファーナの日(一月六日、イタリアのクリスマスシーズン最後の日)まで持ちそうだ。イブの夜にはサンタさんにも捧げよう。

ではみなさま、メリークリスマス、イタリア語ではBuon Natale!

 

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トリリンガル・マム
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