映画は映画館で見たい、そう思うものの、出かけていくのが億劫で、昨今はサブスクで見ることが多くなった。映画館で見る迫力とタイムリーさには欠けるものの、手軽に見られるのはありがたい。見逃していた作品を見られたり、思わずいい作品に出会うこともある。
先日見てよかったのが、2020年公開のイタリア映画「離ればなれになっても」。「幸せのちから」で有名なイタリア人監督、ガブリエーレ・ムッチーノの作品で、原題は「Gli anni piu’ belli」、人生最良の年、という意味だ。
主役のひとりはあのキム・ロッシ・スチュワート。「あの」というのは、同年代の人ならわかると思うが、輝くような美形で若いころ日本でもテレビコマーショルなどで人気だった。そうか、あの美形が年月を経てこんな五十男になるのか、と、ちょっと感慨深かった。
それはともかく。
当作品はひとりの女性と男三人の愛と友情の人間模様を、1982年から2022年までの40年にわたって描いた映画。
1982年のローマ。16才のパオロ、ジュリオ、リッカルドの仲良し三人組はいつもつるんで遊んでいた。そこにあらわれた「宝石」という意味の名を持つ16才のジェンマ。その名のとおりうつくしく輝くジェンマにパオロが一目惚れし、ふたりは熱烈な恋に落ちる。
ジェンマも加わり四人となった仲良し組。飛んで跳ねて青春を謳歌するが、それもつかのま、ジェンマの母が急死し、ジェンマはナポリの伯母のうちに引き取られることになる。大人の都合で引き裂かれてしまうパオロとジェンマ。幼い恋の痛切な別れ……。
数年後、再会したジェンマは別人のように変わってしまっていた。
男三人の人生も思い描いたようにはいかない。
パオロは教員志望だが正規教員のポストがいっこうにあかず、万年代用教員。リッカルドは俳優になるが生活のめどが立たない。貧しい家庭出身だが優秀なジュリオは弁護士になり、貧しい人々の味方になろうとするが、ひょんなことから裕福な一家の娘婿となりーー。
40年にわたってジェンマと男三人の愛と友情が交錯する。涙の再会。まさかの裏切り。バッドタイミング、すれちがい、失望、軽蔑……。四人四様に人生が展開し、仲良し組は離ればなれになっていく。
ヒロインのジェンマは一見、行き当たりばったりの尻軽な女の子に映るかもしれない。でもそうじゃないのだ。みなしごの彼女には行き場がない。道の切り開き方もわからず、男に頼るが、彼女の不安、孤独を魔法のようにぬぐい去ってくれる男はいない。それで結局、ジェンマ自身がもっとも傷つく。
男たちも人生の荒波にもまれ、それぞれの問題と孤独を抱えている。仲良し四人組でバカをやった日々、はじけるように笑った日々は、もやは大昔のことのようだ。
しかし、人生捨てたものでもない。
白髪が目立つような、青春の輝きは永遠に過ぎ去ってしまったと痛感するような年になって、また不思議なめぐりあいが起こり……。
終盤、オペラ座でトゥーランドットのアリアが流れるなか、ジェンマが再び階段を駆け上がるとき、感動が湧き上がった。ジェンマは「宝石」、いろんなことがあってもその本質である純粋な輝きは損なわれていない。そしてそれを今度こそ理解し、いとおしんでくれる相手と出会えた——。
わたしたちはみな、予行演習もできないまま人生の本番に送り出される。わけもわからないまま進んでいき、いいときもあるが、こんなはずではなかったと歯噛みすることも。
でも、人は模範をなぞるために生まれてくるのではない。失敗だらけの、恥かきだらけのデコボコ道でも、それがそのまま、自分だけの唯一無二の物語なんだ、そう肯定したくなる、あと味のいい映画だった。
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UnsplashのHelena Lopesが撮影した写真, Thank you! (当映画作品とは関係ないイメージ写真です)
