意味深な題名の映画である。どんな話なのか?
山崩れとか、ダムが決壊して帰れたくなったのかなと思いながら見始めた。が、まったくそういうことではなかった。意味は最後にわかる。
原作はイタリアの作家、パオロ・コニェッティの小説、「Le otto montagne 八つの山々」。ストレーガ賞という、イタリア文学界最高の賞を受賞した作品で、国際的ベストセラーだそうだ。
静かな映画だった。が、深い余韻が残った。友情、親子、居場所を求めての魂の彷徨……。そしてそこに常に山がある。人の営みを凌駕して厳かに聳え立つ、イタリア最高峰のアルプスの山々が……。
舞台は北イタリア、モンテローザ山麓の小さな村。物語の始まりは1984年。主人公はふたりの少年で、ひとりは大都市トリノに住むピエトロ。もうひとりは村で牛飼いをしている少年、ブルーノ。
ピエトロの父はエンジニア、母は教師。ふたりとも山好きで、息子に登山の手ほどきをしたいと夏休みに村に別荘を借りる。そこでピエトロはブルーノに出会う。
ブルーノは母を亡くし、父は出稼ぎでおらず、叔父夫婦の酪農を黙々と手伝う孤独な少年だった。
都会のちょっと繊細な子、ピエトロと、野育ちのブルーノ。対照的なふたりだが、夏の輝く山、青くきらめく湖、緑のなかで次第に友情を育む。ピエトロの両親もブルーノのことをかわいがり、父は少年たちを氷河のトレッキングに連れていく。
しかし少年たちが成長するにつれ、ふたりを取り巻く世界は複雑になっていく。
ピエトロの両親はブルーノが高校に行けるようにとトリノに引き取ろうとする。が、ブルーノの父はそれを許さなかった。ブルーノは父に連れられ建設現場に出稼ぎに行く。
一方、ピエトロは父に反抗し、大学を中退。家を出、職を転々としながら自分の生きる道を模索する。ふたりは十数年、会うこともなかった。
ピエトロの父の死をきっかけに、ふたりは山で再会する。山の斜面にあるボロボロの岩や石の塊——父は息子にこの廃墟を残し、ブルーノに廃墟をよみがえらせてくれと頼んだ。ピエトロはブルーノに教えてもらいながら共に大工仕事に取り組む。友情が復活する。
ブルーノと再会したことでピエトロは父の別の顔を見出す。大都市の大工場でコマのごとく働くエンジニアの顔、ピエトロが嫌った生き方とは別の顔、その秘めた思いを。また、息子に家出されてからの年月、ときどきブルーノと山に登っていたことも——
男たちが寡黙だ。山男のブルーノだけでない、ピエトロも、ピエトロの父も、口下手というか、内向的というか、めったに感情や本音をあらわさない。
その寡黙さは好ましかったが、痛ましくもあった。ピエトロの父は息子に「おとうさんのように生きたくない」と言われても、なにも言い返さない。息子が出ていってもあとも追わない。それきり親子は永別してしまう。
でもピエトロの父には、息子に伝えたい思いがあった。いつかその時が来たらと、息子に廃墟と手がかりを残していた。
大人になったピエトロとブルーノは、元廃墟だった山小屋を拠点に、遠距離の友情を深めていく。
ピエトロは放浪をして、ネパールの山岳地帯に居場所らしきものを見つける。
ブルーノは故郷の山で新しい門出を切る。幸せを手にしたかのように見えたが、山での生業の立て方は少年の日々のように単純には行かず……。
ピエトロ、ブルーノ、ブルーノの父。三人の男たちの前に常に山がある。黒々と立ち聳える岩山、神秘的で危険な氷河、尾根から見渡す果てしない空……。
山々とその静寂は、孤独で不器用な魂たちの棲家なのだろうか。
そしてブルーノの最期……。実に彼らしい最期だった。彼は言っていた。山は俺を傷つけたことがないと。
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映画「帰れない山」。今、アマゾンで無料で見られるようです。
こちらは原作。関口英子さん翻訳です。関口さんは映画字幕も担当、すばらしい字幕だったと思いました。本も読んでみたい。
帰れない山 (Shinchosha CREST BOOKS)
〜終わり〜
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UnsplashのFlorian Schönbrunnerが撮影したモンテローザの写真, Thank you!
